
まるで世界最古の探偵小説
『アンティゴネー』同様、本作でも「自然法と人為法」というモティ−フが顔を出すが(49頁)、本作の妙は何と云っても作劇術にあり、結了まで読む者を引っ張る作品そのものの力(全編に漲る緊張感)が素晴らしい。特に、コリントスにあって義理の父母の下で暮らす主人公が父の殺害と母との姦淫を神託され、それを避けるために止む無く向かったテバイでそれが皮肉にも現実化してしまうという基本プロット(80頁)は、現代のエンタメ小説も顔負けではないか。また、オイディプス(腫足)と娘たちとの別れのシーンも哀切極まりない(129頁)。正に永遠の古典。

悲劇の原点
「悲劇」なるものは、私の未熟な読書歴では、シェイクスピアの戯曲しかまだ読んでいませんでしたが、その原点とでもいうべき戯曲が、この二千年以上前に書かれたという『オイディプス王』ではないでしょうか。
フロイトによるエディプス・コンプレックスの語源ともなったこの作品。「父を殺し、母と交わるであろう」という予言の、緻密な構成を経ての的中。無駄を排した短い作品であるのが、却って緊張感を読者に与えてくれます。
運命の過酷さを訴えた作品ですが、私が着目したのが、オイディプス王の誠実さです。彼はかなりの正直者で、責任感のある王だと思います。自分自身についてだけでなく、国全体の悩みを本気で考え抱え込んだ彼が、ああいう定めにあったのは、まさに悲劇極まりないといった感です。真実を知ってしまった後の行為や発言も、非常に責任感があります。運命という不可解なる存在がなければ、この国はオイディプス王の下に、きっと素晴らしい国になっていたんじゃないでしょうか。
いずれにせよ、二千年前のギリシャの空気が味わえ、且つ為になる、素晴らしい戯曲です。ちなみに、村上春樹著『海辺のカフカ』でも、モチーフの一つとして取り上げられています。

この時代に何を感じ、何を思ったのか。
今の時代に、この物語を発表しても「悲劇」の頂点として、
「運命」ということの意味深さの頂点として、一世を風靡
できたであろう。
それくらい、ここまで家族と愛とそして人生における立ち
位置と……意識せざるをえないドラマをソプクレスがあの
時代に生み出していたいうことにも驚きを隠せない。
日本語訳に関しては、最初読んだときにはわかりにくい印
象を受けた。でも、2度目には納得、確実に引き込まれてし
まった。これは物語の持つパワーなのか、訳の巧みさかは
わからないが、できれば、一度読んだときに引き込んでく
れればと感じた。

美しい文章です。
すばらしい翻訳でした。
最近ギリシャものを読み始めたばかりでしたが、
初っ端からこんな当たりに遭遇するというのは何という僥倖でしょうか。
「精確な訳」としては、不満に思われる向きもあるかもしれませんが、
最近ではこのような擬古文を駆使した美しい文章は見られません。
神々への頌歌を日本語の感性へ変換しきっており、
訳者の日本語文の教養深さが窺えます。他の翻訳も読んでみたいと思わせます。
本書はすばらしく格調高い文学作品であり、文章それのみでも
味わう価値があります。是非そういった面からも読まれて欲しい本です。
昨今の無味乾燥な翻訳物を見るに、日本語表現を磨いて欲しいと切に思います。
ただ、巻頭に系図は無用です。巻末にしていただきたかった。

「悲劇」の代名詞
なんとも、不思議な感覚の作品でした。
しかし下衆な視点で恐縮ですが、母親であってもおかしくない年齢の女と結婚した時点でオイディプス王は自分を恥じないのだろうか?
それならば、妻が母だと分かったって、毒を食らわば皿までも、って感じでふてぶてしく生き延びればいいのに、と思ってしまいました(笑)