
社会保障の原理的考察
1961年に生まれ、厚生省勤務の経験を持つ、医療経済・社会保障論、科学哲学の研究者が、経済との動態的な関係、グローバルな視点に重点を置いて、社会保障に関する原理的な考察を行おうとして、1999年に刊行した本。社会保障は基本的に、産業化に伴う自然発生的な共同体の解体(機能の外部化)傾向に対して、それに代わる意識的な共同体(個人をベースとするネットワーキング)を社会的に再構築・支援しようとする制度である。その際、日本の特殊性としては、当初ドイツ型社会保険システム(保険料を主財源とする職域中心の所得比例的給付)として出発し、第二次大戦中から次第にイギリス的な普遍主義的方向(租税を財源とする全住民対象の均一給付)に移行し、その結果制度の基本的な趣旨の不明瞭な、折衷的な制度となっていること(保険と税の渾然一体性)、その過程で、非サラリーマン集団が相対的に多い途上国型経済構造の中、国保を通じてその取り込みが積極的に行われ、また経済の二重構造化に対応して、国家自身が保険者になったこと、更に急速な産業化の結果、医療保険の整備後、年金が遅れてしかし急速に膨らむという経過をたどったことが挙げられ、これらは特に発展途上国にとって示唆するところが多いという。著者は(本来「環境親和的」な)成熟経済に対応し、制度の趣旨を明確化するために、公私の役割分担を再検討し、所得再分配に関しては公的扶助を、リスク分散の内、若年医療のような逆選択が生じやすいものについては社会保険を、それ以外については民間保険を活用することを主張し、市場とその補完・修正を基調とし、個人間ネットワーキングを支援する医療・福祉重点型社会保障を提言する。本書は世界的な分業体制の分析が弱く、予定調和的な未来像を描いている感が強いが、原理的な社会保障論として、重要な指摘を多く含む。

社会保障を考える上で必要な情報が凝縮された良書
出版は古いが、原理的説明に徹しているので、社会保障の概念を理解するのに現在でも大いに役立つ。なにより、とても整理された文章で読みやすく、わかりやすい。
まず社会保障の役割を「リスク分散」と「所得の再分配」に大まかに定義する。また、社会保障を「財政」と「供給」(病院や介護施設など)に分類し、両者を提供する主体にそれぞれ公と私があると説明する。更にそれらの類型を詳細に説明して、それぞれの選択を社会状況に合わせて行う必要があると説く。
社会保障と環境被害対策の類似性を指摘して、社会とのかかわりの理解を助ける。また市場や共同体と社会保障との関係もわかりやすく説明されている。
これを読めば「病床数が削減されて老人が病院から締め出されている。可哀想だ。」というマスコミ論評の底の浅さを理解できる。

実践へ
私は、人文社会系の編入に役立つかな?と思って購入したのですが、誰もが感じているんではないでしょうか?日本に生きていて息苦しさというか、閉塞感というか…原因は言い知れぬ不安。その部分を、ずばっと言ってくれている作品です。社会保障とありますが、現代日本と言ってもいいくらいの広い視点で書いてくれています。そして、問題点に関する筆者なりの解決策も書いています。言われてみるとなるほどという内容ばかりなのですが、現状は実践されていないことばかり。私は政治にほとんど関わっていないのですが、一個ずつ実践に移せば日本は変わっていくのではないでしょうか?視野が広がるといいますかいろいろ考えさせてくれて、心がちょっと明るくなる名著だと思います。

よくまとまっている
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