
よく理解できるし面白いけど
本書の価値を著しく減じていることがある。
それは、現在のアメリカを、もはや歴史に属しているものと考えられてもよい「帝国」と定義
づけることが意味することをほとんど示していないことである。
「帝国とは、政府や政策の評価ではなく、現代世界における力の分布と力の行使を捕まえる観
念」であり、「帝国という用語は、もうそれだけで価値判断や偏見を伴うことが多い」が、著
者の目的はアメリカの「帝国ぶり」をなじることにはない、と述べているだけになおさらである。(3頁)
なぜ今のアメリカを説明するのに「帝国」という概念を用いるのか。それが説明されていない
と、やはりそこには何らかの隠された「意図」を感じてしまう。
アメリカが「唯一の超大国」である国際関係と、「帝国」である国際関係の大きな違いは、ア
メリカの「意図」にある。パワーの分布は基本的には変化がないだろう。
そして、「唯一の超大国」から「帝国」へと変貌を遂げた大きな要因が、9・11だと説明する。
本当にそうだろうか?本当にアメリカは変わったのだろうか?
ある地域へと影響力を行使しようという「意図」は、9・11前はなかったのだろうか?
冷戦終結によって、影響力が行使できる範囲が広がったことは事実だろう。だが、冷戦中のア
メリカは自国が持つ影響力をそれが及ぶ範囲の地域や国に行使しようとしてこなかったのだろ
うか?
9・11によって世界は変わったのかもしれない。だがそれをアメリカの「帝国化」という変化に
よって説明するのは、本書を読む限りでは無理があると考える

灰色の研究
アメリカを黒でも白でもなく冷静に捉えたい。筆者のそんな視点に共感できる。
だが現在のアメリカは黒でないまでも、限りなく灰色に近い黒だ。本書における批判もそのような傾向を示している。もちろんそれは、本書が9・11テロから1年を経過した時期の執筆であることを反映している。
筆者が明らかにする帝国アメリカの行動原理は、デモクラシーと正義という理想である。アメリカはこれを、国際協調を無視した無制限の単独行動主義で推し進めていく。このような帝国的なあり方は、リアリストよりも、リベラルを含むイデアリストによって支持されているというが、9・11テロ直後の異常なブッシュ支持率を裏書きしていて、アメリカのリベラルのナイーヴといってもよい底の浅さに寒気を覚えてしまう。
それから瑣末なことかもしれないが本書の中に、アメリカの対外政策の足かせがテロリストによって取り払われた、とかアメリカが単独行動主義に切り替えるには9・11テロが「必要」だったという表現が見られる。あたかもテロをアメリカが望んだかのような表現だが、あのテロはアメリカの自作自演だったのではないかという疑いを持っている私には、不適切どころかかえって適切な表現に思われた。
ほかに本書には「インディー・ジョーンズ」や「インディペンデンス・デイ」あるいは「地獄の黙示録」などハリウッド映画が、アメリカの帝国的性格を表わすものとして取り上げられている。その政治的・社会的分析が、映画の性格をうまく説明してくれていて、かえって一般の映画批評よりも新鮮で面白く、ためになった。
いまや末期状態にあるブッシュ政権だが、9・11後を振り返り、またその先を展望する上で、本書は依然として有効な批判書になっている。

どの辺がデモクラシーか
流行の帝国論の一書である。
アメリカは帝国である。そしてアメリカはそれ以前との帝国とどう違うのか。
植民地帝国であったイギリスとは違い、アメリカは海外に領土を求めないところにこそ特長がある。特定の植民地を持たないことこそがアメリカの都合のいい介入を実現させる基盤である。そして軍事力。冷戦終結後も比類無き軍事力を確保してこそ国際政治におけるフリーハンドを有することが出来る。
そしてアメリカが単独で覇権を行使できる軍事以外の局面では他国との協調も否応なく必要となる。ではアメリカが協調することもない小国の運命はどうなるのか。そこに第三世界の失敗がある。
本書を一読して思ったことは、「デモクラシー」という言葉をわざわざ表題に持ってきた意味は何?ということである。
内容はあくまでも帝国論である。民主主義社会が生み出した帝国のあり方などが論じられるかと思えばそうでもない。羊頭狗肉とまではいかないが看板に感じた疑問はぬぐえない。

主張は分かる。が、しかし...
著者の意図として、米国と各国との相互関係の上で、米国を批判しているのは最もだと思うし、批判しながらも、将来の国際関係において米国に期待している面もまた、最もだと思う。さらには、米国を含んだ国際システムを再構築するのに、現在において最も普遍的であると言える組織である国連を利用する面もまた分かる。と言うかそれしか方法が無いのかもしれないが。
しかし、その為の手段を最も明示的に示して欲しかった。結局、国連に期待するのは分かるが、では「どうやって米国を国連に巻き込むのか?」と言う、実際的な面を示していない点で、イマイチ現実性の無い話に終わってしまった観がある。最も、これは「新書」であると言う点を考慮すれば、仕方の無い事なのかも知れない。
本書で最も興味深かった事は、分析の手法の1つとして、文化的概念である「映画」を用いている点である。著者の示唆する通り、その時代の文化的側面が、その社会を映す鏡である事は当然であるし、こういった面が、外交史における分析手段の多様化を示していると考えれば、月並みの意見ではあるが面白いと思う。
従来の研究手段にとらわれない多様な研究が既に存在しているが、これからの外交史では、この様な側面がより一層重視されていくのだろうなぁ…と、漠然ながらも読んでいて思った。そう言った意味では、新書ながらも、非常に楽しめた書籍であると言える。

「デモクラシー』は国境を越えて
なるほどアメリカとはこういう国なのか。
「デモクラシー」は国境を越え、他国を染め上げる。「デモクラシー」を広めようとすれば、他国を支配することになる。王の支配する「帝国」を崩したはずの「デモクラシー」が、新たな王となり「帝国」を築く。この矛盾、皮肉。
この本は、「デモクラシー」の持つ、今まで語られなかった闇に光を当て、未だ解決しない問題がそこに横たわっていることを教えてくれる。