
便利な一冊だが。
シェイクスピアの代表作について、作者が何を意図していたか(何を見せたかったのか)という点を中心に紹介されています。
詳しい人から見た場合はどうか分かりませんが、私のようなシェイクスピア初心者は、それなりに知らないことが多いので楽しめるでしょう。
でも初心者ながら物言いを一つ。ヴェニスの商人でユダヤ人の悲劇という読み方を浅薄であると指摘しています。その根拠は、シャイロックがアントニウスを殺そう計画する悪意を持っているからとしています。確かにシャイロックは、アントニウスに悪意を持ち、その死を願っていますが、それは主体的な行動によって手に入れた機会ではなく、あくまで受動的に得たものに過ぎません。シャイロック自ら言うように、ユダヤ教徒であっても足蹴にされれば恨みもするわけで、そこまで追い詰められたことこそ悲劇と呼ぶに値するのではないでしょうか。

謀られたかっ!
私はなぜか戯曲はまず読みませんので、当然シェイクスピアも殆ど読んでいません。読んだのは「マクベス」「ハムレット」「ロミオとジュリエット」だけ。
そんな私が、なんで今更こんな本を読む気になったのか?
と言っても、さしたる理由はありません。本屋でたまたま目について、単純ですが、タイトルに惹かれた、というのが正直なところです。「本と目が合った」などと表現する人もいますが。大体「たくらみ」とはおだやかではないではありませんか?一体どういうことなのだ?と好奇心をくすぐられたわけです。
で、結構〈目ウロコ〉ものでした。シェイクスピアは極めて有名と言うか、古典中の古典、誰でも知っている大作家なわけで、今でも常に世界中で上演、映画化され続けている「不滅の詩人」です。なので、あまりに当たり前すぎて、映画などで何度も見知ったつもりになっており、今更わざわざ読む人は少ないのではないか?とも思うのですが、私もそうなのです。
この本では多くの作品の設定、ストーリー展開を簡潔にまとめた上で、そこに仕組まれた絶妙な仕掛けを解明しています。そこに現れて来るのは「観客の反応を計算し尽くして、どのように劇に向き合わせるかを企んで書いた」という彼の方法です。あらかじめ展開を明示してしまい、観客に一歩引かせた視点に立たせて感情移入をあえて妨げる、とか色々な技法を駆使しているのです。
実は私は、彼があんな昔にこれほどモダンな手法(それはブレヒトを先取りしている)を既に実現していたということを知らなかったのです。そういう意味で非常にエキサイティングな本です。錯覚かも知れませんが、シェィクスピアの多くの作品群を読んで堪能したつもりになれる、という意味ではお得感もあります。おすすめ。